BLue CaFe NeT

by HiRoo iNoue || ACTOR

転がる石のように <後編>

退院した僕を待ち構えていたのは、尊敬する先輩であり、頼りになる兄貴であり、支え合う友人同士であったNさんの訃報だった。1週間の不在の間にNさんとの共通の知人から届いたメールは彼が、何ヶ月も前に自ら命を絶っていたことを知らせていた。

僕にとって彼は特別な人だったし、彼にとって僕は特別だった。にも関わらず、小さな事件を境に距離が生まれてしまい、いつの日にかと思いつつ、すれ違いは5年間にも達してしまっていた。もっと早く、何かをどうにかすべきだったと、僕は激しく後悔した。

結果的にその日の夜、僕は勤めていた会社を辞めることを決め、その2週間後に実際に退職した。そして、どこに向かっているのか分からない放浪の1年の後、僕は俳優としての一歩を踏み出した。

直接的な因果関係がどれだけあるのかは分からない。単なる気分的なものかも知れない。でも、いま自分が芝居をやっている不思議で幸せな運命は、あの入院を契機に転がり始めたんだと確信をもって言うことが出来る。そして、芝居をやっている限り僕はNさんに見守ってもらえてるような気がしているのだ。入院して改めてそんなことを考えた。